東京には世界クラスの美術館が数多く存在しますが、首都を少し離れて足を延ばせば、その選択肢はさらに広がります。日本の最も思考を刺激するアート空間の多くは、雄大な自然と建築美、そしてアートが見事に調和する絶景の地に佇んでいます。
今回は、東京からの日帰り旅から、じっくり巡る週末のアート巡礼まで、旅の目的として計画する価値のある日本全国の特別な美術館10選をご紹介します。

ピーター・ジョン・ピアース「しゃぼん玉のお城」(1978年)箱根 彫刻の森美術館
山と森に抱かれたアートエスケープ(日帰り旅)

ポーラ美術館:箱根(東京から約2〜2.5時間)
箱根の青々としたブナの森に抱かれたポーラ美術館は、環境と建築が調和する完璧な美の基準を示しています。建物の大部分は地下に埋設されており、巨大なガラスのアトリウムロビーから柔らかな自然光が打ち放しコンクリートの空間へと降り注ぎ、外の深い森と美しいコントラストを描き出しています。館内にはモネ、ルノワール、セザンヌらの作品をはじめ、印象派の傑作から日本画、洋画、陶磁器、現代アートまで多岐にわたるコレクションを収蔵。定期的に魅力的な企画展も開催されています。豊かな樹々に囲まれ、彫刻が点在する全長1キロの森の遊歩道散策もお見逃しなく。
- 所在地:神奈川県足柄下郡箱根町
- 開館時間:9:00〜17:00(最終入館 16:30)。年中無休(展示替えによる臨時休館あり)。
- アクセス:東京駅から東海道新幹線またはJR東海道線で小田原駅へ。小田原駅から箱根登山バス(小尻・桃源台行き)に乗車し、「ポーラ美術館」バス停下車(約40分)。

中村キース・ヘリング美術館:北杜(東京から約2.5時間)
山梨県北杜市の雄大な山々に抱かれたアートスポットに位置する中村キース・ヘリング美術館は、キース・ヘリングの作品と生涯のみに捧げられた世界で唯一の美術館です。建築家・北川原温氏が手がけた建物は、鋭角的なフォルムと大胆な幾何学構造を特徴とし、1980年代のニューヨークのストリートカルチャーが持つ混沌と生命力を表現しています。
コレクションには、初期のサブウェイ・チョーク・ドローイングから大型彫刻、光り輝くアイコン、そして最晩年のエイズ問題に取り組んだ作品まで、彼の全キャリアを網羅する約300点が揃っています。八ヶ岳の静寂な山並みをバックに、彼の大胆で鮮烈なポップグラフィティのラインが映える光景は、ここでしか味わえない強烈な体験となるでしょう。
- 所在地:山梨県北杜市
- 開館時間:9:00〜17:00(最終入館 16:30)。水曜休館(祝日の場合は開館)、12月31日、1月1日。
- アクセス:新宿駅からJR中央線特急にあずさに乗車し、小淵沢駅へ(約2時間)。または新宿から高速バスで「小淵沢」バス停へ。小淵沢駅からタクシーで約5〜10分。

ガブリエル・ロワール「幸せを呼ぶシンフォニー彫刻」(1975年)ステンドグラスの塔、箱根 彫刻の森美術館
箱根 彫刻の森美術館:箱根(東京から約1.5〜2時間)
1969年に日本初の野外美術館として開館した箱根 彫刻の森美術館は、箱根の緑豊かな山々や谷を自然の展示室として活用しています。野外彫刻たちは、四季の移ろいや天候、光の角度によって刻一刻とその表情を変えていきます。
ヘンリー・ムーア、ジョアン・ミロ、オーギュスト・ロダンらの名作が芝生の上に点在していますが、最も象徴的な建造物が「幸せを呼ぶシンフォニー彫刻」です。壁一面にステンドグラスが嵌め込まれたシリンダー状の塔で、中央の螺旋階段を上ると360度の大パノラマが広がります。また、300点以上のピカソ作品を収蔵・順次展示する屋内のピカソ館や、敷地内で湧き出る天然温泉を利用した足湯もあり、鑑賞の途中でゆったり癒されることができます。
- 所在地:神奈川県足柄下郡箱根町
- 開館時間:9:00〜17:00(最終入館 16:30)。年中無休。
- アクセス:小田原駅から箱根登山電車に乗車し、「彫刻の森」駅下車(約50分)。駅から徒歩約2分。

ホキ美術館:千葉市(東京から約1.5〜2時間)
千葉の豊かな公園の緑に隣接して佇むホキ美術館は、まさに建築の奇跡です。日建設計が手がけた建物は、3層の長大な回廊型ギャラリーで構成されており、一部が空中へと大胆に跳ね出した構造で突き出し、窓からは周囲の森の風景が絵画のように切り取られています。
日本で初めての写実絵画専門の美術館であり、約60名の作家による500点以上のコレクションを誇ります。息をのむほど精緻に描かれた肖像画、風景画、静物画が並び、柱のない緩やかなカーブを描くギャラリー空間で、作品の超絶技巧を至近距離で静かに堪能することができます。
- 所在地:千葉県千葉市緑区
- 開館時間:10:00〜17:30(最終入館 17:00)。火曜休館。
- アクセス:東京駅からJR外房線(特急または快速)で土気(とけ)駅へ(約50〜60分)。土気駅南口より千葉中央バス「あすみが丘ブランドニューモール行き」に乗車、「ホキ美術館」バス停下車。

海を望む絶景アトリエ・美術館(日帰り旅)
江之浦測候所:小田原(東京から約1.5〜2時間)
世界的な現代美術家・建築家である杉本博司氏が構想・設計した江之浦測候所は、相模湾を見下ろす蜜柑畑の傾斜地に建てられた壮大な複合施設です。敷地全体が一種の宇宙計測器として機能しており、冬至・夏至・春分・秋分の日の太陽の光軸に合わせてギャラリーや舞台、光学ガラスの光道が配置され、景観そのものが天体のカレンダーとなっています。
日本の伝統的な建築様式や、各地の寺社・城郭から受け継がれた歴史的な石材を用いて建設されました。夏至の日の出の光がまっすぐに突き抜ける夏至光遥拝100mギャラリーや、太平洋の海原にシームレスに浮かんでいるかのように見過せる光学硝子舞台など、圧倒的な空間美が広がります。
- 所在地:神奈川県小田原市
- 時間:完全予約・事前入替制(午前の部 10:00〜13:00 / 午後の部 13:30〜16:30)。火曜・水曜休校(祝日の場合は開校)。※事前予約必須。
- アクセス:東京駅からJR東海道線で根府川駅へ(約1時間15分)。根府川駅より無料送迎バスを運行(要事前予約)。

横須賀美術館:横須賀(東京から約1.5〜2時間)
山本理顕氏が設計を手がけた横須賀美術館は、建物を環境と一体化させたモダンでエココンシャスなデザインの傑作です。三浦半島の海岸線沿いに位置し、背後には緑豊かな県立観音崎公園、前方には東京湾の大海原が広がります。ガラスと鉄によるダブルスキン構造の建物には各所に丸穴が開けられており、そこから森や青空、行き交う船の姿が切り取られ、光あふれる開放的な空間を生み出しています。
主に日本の近現代美術に焦点を当て、絵画、版画、彫刻など6,000点以上の作品を収蔵。併設の谷内六郎館では、『週刊新潮』の表紙絵で愛されたイラストレーター・谷内六郎の心温まる世界を堪能できます。
- 所在地:神奈川県横須賀市
- 開館時間:9:00〜17:00。休館日:毎月第1月曜日。
- アクセス:品川駅から京急線で馬堀海岸駅へ(約45分)。京急バス「観音崎行き」に乗車し、「横須賀美術館前」バス停下車(約10分)。

撮影:Victoria Bennett
MOA美術館:熱海(東京から約1.5時間)
温泉リゾート地・熱海の高台(海抜250メートル)に位置するMOA美術館は、壮大で劇的なアプローチが魅力です。入口から館内へは、万華鏡のような巨大な光が変化する色彩のエスカレーターが広がる地下トンネルを通り抜けて向かいます。
日本および東洋の古美術を中心に、絵画、書跡、彫刻、工芸など多岐にわたる国宝・重要文化財を収蔵。尾形光琳の最高傑作である国宝『紅白梅図屏風』でも知られています。伝統美と現代建築が見事に融合した館内の巨大なガラス窓からは、初島や伊豆大島、太平洋の水平線を見渡す圧倒的なパノラマビューが広がります。
- 所在地:静岡県熱海市
- 開館時間:9:30〜16:30(最終入館 16:00)。木曜休館。
- アクセス:東京駅から東海道新幹線で熱海駅へ(約45分)。熱海駅バスターミナルより「MOA美術館行き」バスに乗車(約10分)。

藤本壮介「直島パヴィリオン」(2015年)直島
究極のアート巡礼(一泊二日以上の旅)

レアンドロ・エルリッヒ「スイミング・プール」(2004年)金沢21世紀美術館
金沢21世紀美術館:金沢(東京から約2.5〜3時間)
プリツカー賞受賞の建築家ユニットSANAAが設計した金沢21世紀美術館は、正面や背面の区別がない低層の円形ガラス建築です。街に開かれた公園のように四方からアプローチできるレイアウトは、現代アート特有の敷居の高さを払拭してくれます。
同館の代名詞であるレアンドロ・エルリッヒの恒久展示作品『スイミング・プール』では、水の層を隔ててプールの上と水中から人々が見つめ合う不思議な体験を楽しめます。世界最先端のインタラクティブなコンテンポラリーアートが揃い、文化的な週末旅行の目的地として完璧な場所です。
- 所在地:石川県金沢市
- 開館時間:交流ゾーン 9:00〜22:00 / 展覧会ゾーン 10:00〜18:00(金・土曜は20:00まで)。月曜休館。
- アクセス:東京駅から北陸新幹線で金沢駅へ(約2時間30分)。金沢駅兼六園口バスターミナルより城下まち金沢周遊バスなどで「広坂・21世紀美術館」バス停下車。

草間彌生「南瓜」(1994年)直島
地中美術館&直島:香川(東京から約4〜5時間)
直島は、古い町並みや漁村風景の中にサイトスペシフィック・アートやオープンエアギャラリー、建築美が同居する日本最高峰の「アートの島」です。
その中心となるのが、瀬戸内海の美しい景観を損なわないよう安藤忠雄氏が建物の大部分を地中に埋設して設計した地中美術館です。開口部から注ぐ自然光のみで作品を鑑賞する空間には、クロード・モネの最晩年の『睡蓮』をはじめ、ジェームズ・タレル、ウォルター・デ・マリアによる没入型の作品が展示されています。波打ち際に佇む草間彌生の水玉の「南瓜」彫刻とあわせ、生涯に一度は訪れたい最高峰のアート巡礼地です。
- 所在地:香川県香川郡直島町
- 開館時間:10:00〜18:00(最終入館 17:00)。月曜休館。※オンラインによる日時指定のオンライン予約チケットが必須。
- アクセス:東京駅から東海道・山陽新幹線で岡山駅へ(約3.5時間)。JR宇野線に乗り換えて宇野駅へ向かい、宇野港へ。宇野港からフェリーで約20分、直島・宮浦港へ。

十和田市現代美術館:青森(東京から約4〜5時間)
本州北端の青森県に位置する十和田市現代美術館は、建築家・西沢立衛氏により、ガラスの廊下で結ばれた独立した白い展覧会室群として設計されました。「アートのための家」として発想された各部屋は展示作品に合わせて個別に設計されており、街のメインストリートに向かって大きなガラス窓が開かれているため、街全体が巨大な野外ギャラリーのように感じられます。
ロン・ミュエックによる高さ約4メートルの超写実的な巨大彫刻『スタンディング・ウーマン』や、広場に広がる草間彌生の水玉彫刻群、メインエントランスを守るチェ・ジョンファの鮮やかな高さ5.5メートルの『フラワー・ホース』など、インパクトあふれる作品が来館者を迎えます。
- 所在地:青森県十和田市
- 開館時間:9:00〜17:00(最終入館 16:30)。月曜休館。
- アクセス:東京駅から東北新幹線で七戸十和田駅へ(約3時間)。十和田観光電鉄バスに乗車し、「十和田市現代美術館前」バス停下車(約35分)。
この記事は、Alina Joan Itoによる英語の原文を翻訳・編集したものです。