過去15年間にわたり、MAPPAは野心的な新興スタジオから、ダイナミックな作画と映画さながらの演出力で世界中のファンを魅了する、名実ともにグローバルなアニメ業界の絶対的巨大スタジオへと成長を遂げてきました。賞を総なめにしたヒット作『ユーリ!!! on ICE』から、世界的な熱狂を巻き起こした『呪術廻戦』に至るまで、MAPPAは現代アニメの可能性を常に再定義し続けています。
スタジオが結成15周年を迎えるにあたり、その歩みは現代アニメーション職人技の進化と、業界全体のダイナミズムの変化の双方を色濃く反映しています。
MAPPAの創業秘話
MAPPA(Maruyama Animation Produce Project Associationの頭文字)は、アニメ業界の重鎮でありマッドハウスの共同創業者でもある丸山正雄によって2011年に設立されました。
丸山氏は数十年間にわたり日本のアニメーション界を牽引してきた人物であり、『DEATH NOTE』や『NANA』を含む不朽の名作を多数プロデュースしてきました。また、1997年に公開された今敏監督のサイコスリラー映画『PERFECT BLUE』をはじめ、絶賛された数々の劇場アニメ作品を手がけたことでも知られています。
次第に厳格化していく企業の組織体制に疑問を抱いた丸山は、約40年過ごしたマッドハウスを去り、より自由な創造性を追求するために東京西部の杉並区(2024年現在は中野区に本社を移転)の静かな街で自らのスタジオを設立しました。

画像提供:PR Times | ©こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会
このスタジオは、片渕須直監督による、一見パステル調でありながら胸を打つ壮絶な戦争ドラマ『この世界の片隅に』を制作するという目的もあって立ち上げられました。制作上のさらなる課題によって映画の公開は遅れたものの、2016年にようやくスクリーンに届いた際、『この世界の片隅に』は第40回日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞をはじめとする数々の賞を受賞しました。
MAPPAは小さなプロジェクトとして始まったかもしれませんが、誕生の瞬間からアニメ界のレジェンドたちの手によって抱かれ、新時代の運命の継承者となるべく運命づけられていました。丸山氏の輝かしい実績もさることながら、スタジオのデビュー作となったテレビアニメ『坂道のアポロン』は、『カウボーイビバップ』で知られる渡辺信一郎監督が手がけた青春群像劇の傑作となりました。
自分の条件でプロジェクトを生み出すという夢を胸に、丸山氏はMAPPAを設立しました。しかし、スタジオが急速に拡大し企業化していくにつれ、かつて去った場所と同じパターンが繰り返され始めていることに気づきます。丸山氏は2016年4月に社長を辞任し、会長職へと退きました。

© ユーリ!!! on ICE 製作委員会
歴史を作るために生まれた作品
そして、同年のわずか数ヶ月後、MAPPAは『ユーリ!!! on ICE』を放ちます。この作品によって、スタジオの軌跡、そしてアニメ業界全体の歴史が大きく塗り替えられることとなりました。
『ユーリ!!! on ICE』は、フィギュアスケートの美麗さと技術的な複雑さを卓越した作画で表現し、オリンピック選手たちをも称賛させ、実際の競技でその楽曲を使用させるほどのインパクトを与えました。本作はスポーツアニメというジャンルに革命をもたらしただけでなく、かつてない手法でLGBTQ+の描写や文化的多様性を描き出し賞賛を浴びました。東京アニメアワードフェスティバルでアニメーションオブザイヤーを受賞したほか、第1回Crunchyrollアニメアワードではノミネートされた全部門を完全制覇するという快挙を成し遂げました。
「自分たちにはヒット作がなく、ヒット作の作り方も分からないというコンプレックスがありました……最初に実を結んだと感じられたのが、『ユーリ!!! on ICE』の放送時でした」と、MAPPAの現代表取締役社長である大塚学はインタビューで語っています。
残念ながら、当時の出資・製作委員会の構造上、大塚社長の解説によれば、『ユーリ!!! on ICE』の世界的な大ヒットに対してMAPPAへの実際の収益還元は非常に低いものでした。これが後に、スタジオの収益構造の改革とリスク軽減に向けた再戦略へとつながり、後々まで影響を及ぼすこととなりました(約束されていた劇場版『ICE ADOLESCENCE』の公開が叶わなかったことは、私を含め今なお多くのファンにとって痛恨の極みです)。しかし、勇利とヴィクトルがMAPPAのアニメーションを世界的なステージへと押し上げ、より大きなプロジェクトへと導いたことは間違いありません。

画像提供:PR Times | ©諫山創・講談社/「進撃の巨人」The Final Season製作委員会
MAPPA帝国の台頭
『ユーリ!!! on ICE』の成功を経て、世界中の新たな視線がスタジオに注がれることとなりました。
MAPPAは2017年の『賭ケグルイ』、2018年の『BANANA FISH』、2020年の『ドロヘドロ』といったヒット作を次々と連発。そしてついに、MAPPAのビッグ3とも言える巨大タイトル『呪術廻戦』『進撃の巨人』『チェンソーマン』の制作へと着手します。ほぼ途切れることなく打ち出されたこれら3つの超大型プロジェクトは、MAPPAのレガシーをより一層確固たるものにしました。
2020年、『進撃の巨人』の第4期アニメーション制作が、それまで3シーズンにわたり素晴らしいクオリティを維持してきたWIT STUDIOからMAPPAへと突如バトンタッチされることが発表されました。アニメ専門誌『ニュータイプ』(2020年11月号)において、『進撃の巨人』のプロデューサーである立石謙介、前田俊博、木下哲哉の各氏はこのスタジオ変更について言及。公式な説明として、シーズン3以降の激しいストーリー展開や作品のトーンの変化に備え、シリーズに新たな視点とアプローチが必要であったことを挙げています。
前田氏はまた、多くの制作会社が『進撃の巨人』という偉大な作品の継承を望んでいたものの、予定されたスケジュールのなかで完結させられると踏み切れた会社はMAPPA以外になかったと語っています。噂によれば、スタジオにはFinal Seasonの全30話を制作するために極めて厳しいスケジュールが与えられていたとされています。
キャラクターデザインが一新され、超過密日程に対応するために戦闘シーンでは3DCGが多用されましたが、MAPPAはアニメ界最大級の巨頭を見事に引き継ぎ、感情を揺さぶる圧倒的スケールで完結まで描き切りました。最終数話を映画として再構築した『劇場版「進撃の巨人」完結編THE LAST ATTACK』は、日本国内だけで公開3日間で興行収入2億4,900万円を記録しました。
さらに昨年には、劇場版『チェンソーマン レゼ篇』も異例の大ヒットを記録。日本国内の公開初日に4億2,000万円を売り上げ、全米週末興行収入ランキングでも第1位を獲得するという快挙を成し遂げました。これは、日本のアニメ産業がハリウッド映画と肩を並べて世界的なメインストリームへと躍り出たことを象徴する出来事でした。
しかし、膨大な資金流入と世界的な絶賛の裏には、重い代償が伴っていました。MAPPAとそのレガシーを語る上で、その労働環境に対する数々の批判を避けて通ることはできません。報道によれば、MAPPAのアニメーションチームには低水準の給与が支払われ、過酷な納期と長時間労働によってクリエイターたちが限界まで追い詰められる「工場のような環境」であったと囁かれています。『呪術廻戦』で数々の名シーンに命を吹き込んだアニメーターのVincent Chansard氏は、二度とMAPPAとは仕事をしないと公言しました。
また、別の匿名アニメーターは「日の出まで働かされた」と告白しており、『進撃の巨人』の演出を手がけた大峰輝之氏も「3日間帰宅していない」とSNS上に投稿(後に削除)するなど、現場からの悲痛なSOSが相次ぎました。
MAPPAの指数学的な成功は、恵みであると同時に災いでもありました。着実に強固な土台を築いていたスタジオは急激すぎる拡大を遂げ、自らの許容量を超えてスタッフをサポートしきれなくなるという歪みを生み出しました。
MAPPAはもともと、一人のベテランクリエイターが企業のシステムから脱却し、純粋に「素晴らしい作品を作りたい」という願いから生まれた場所でした。
しかし、スタジオの進化の過程で、かつての「Maruyama Animation Produce Project Association」が抱いていた夢は形を変えていきました。MAPPA側は一連の告白や疑惑を公式に否定していますが、こうした議論は、スタジオおよびアニメ業界全体が長年直面している根深い課題を浮き彫りにしています。それは、私たちが愛してやまないヒーローたちに生命を吹き込んでくれる才能あるクリエイターたちを、いかに正当に守り、大切にしていくかという問題なのです。