桜の季節が終わると、次は藤の季節です。4月中旬から5月にかけて、美しい紫色のつるが日本中を彩り、鮮やかな花の壁や揺れる藤棚を作り出します。日本で愛されるこの壮大な花は、文学や演劇にも頻繁に登場します。そこで、日本とこの魅力的な藤との関係について、探ってみることにしました。
日本における藤の起源
藤は、何世紀にもわたって親しまれてきました。日本で最も古い織物は藤のつるの繊維を使って作られており、現在も作られています。「藤布(ふじふ)」と呼ばれるこの布は、1991年に有形民俗文化財に指定されました。藤の繊維を身に纏うというアイデアは、藤が持つポジティブな意味合いから来ていると考えられます(これについては後ほど詳しく説明します)。
平安時代(794-1185)には、紫色は高貴なイメージがあったため、皇族や貴族だけが身につけることを許されていました。興味深いことに、西洋でも紫が富や王権を象徴するという考えがありましたが、日本の紫色の藤の花が西洋に届いたのは1800年代になってからのことです。
江戸時代以降、あの羨望の的となる紫色の花棚を作り、花を広く咲かせるために、棚を使った栽培が行われるようになりました。
また、藤は観賞用としてだけでなく、かつては薬用としても重宝されるなど、美しさと実益を兼ね備えた存在として、日本の文化の中にしっかりと根付いてきました。
日本の名字
かつてこの花がいかに珍重されていたか、その証拠は現代の日本人の名前に色濃く残っています。日本で最も多い名字の多くには、実は「藤」の字が含まれているのです。
その起源として外せないのが、歴史上最大の権力を持った一族、「藤原家」です。平安時代、天皇から授けられたこの名はやがて日本中に広がり、各地に移り住んだ藤原一族が、その土地の名前と「藤」を組み合わせて新しい名字を作りました。
佐藤(佐野の藤原)、伊藤(伊勢の藤原)、加藤(加賀の藤原)、斎藤(斎宮頭の藤原)などが例として挙げられます。
一見「藤」そのものとは無関係に見える名字も、そのルーツを辿れば優美な藤の花へと繋がります。実際、日本の名字ランキングのトップ10のうち、約3つは「藤」の字を持つ名前が占めています。
藤のデザインは、武家の象徴である家紋にも多用されてきました。もともと藤は、自然の姿そのままに花が垂れ下がる「下がり藤」として描かれるのが一般的でした。しかし、時代が下るにつれ、一部の家では「花が下がるのは家運が下がるようで縁起が悪い」と考えるようになり、あえて花を上向きに描く「上がり藤」として描かれるようになりました。

写真:Lisa Knight
日本における藤の花言葉
花にはそれぞれ意味があると言われますが、藤も例外ではありません。日本では、その長いつるから、藤は「福を招く」「優しさ」「長寿」を象徴すると考えられています。また、その美しい姿からロマンチックな意味合いも持っています。
藤を贈る場面、あるいは贈るべきでない場面
末永く幸せな結婚生活を象徴することから、新婚夫婦に藤を贈ることは一般的です。また、お祝いの贈り物としても最適です。ただし、お見舞いとして病気の方に贈るのは避けましょう。病気が「根付く」あるいは「長く続く」ことを連想させ、縁起が悪いと考えられているからです。

写真:Lisa Knight
日本文化の中の藤
藤の花は、古来よりその優美な姿で人々の想像力をかき立て、文学、絵画、演劇、そして現代のアニメに至るまで、あらゆる芸術作品に彩りを添えてきました。
日本最古の歴史書『古事記』(712年)にも、藤にまつわるロマンチックな物語が記されています。女神・出石心乙女(いずしおとめ)の心を射止めるため、求婚者の一人が藤の花を携えて現れ、その美しさによって頑なだった彼女の心を開かせたと伝えられています。
また、日本最古の歌集『万葉集』では、藤を詠んだ歌が28首も収められており、当時の人々がいかにこの花に深い情緒を感じていたかがうかがえます。
当然のことながら、この流れるような花は文学、絵画、芸術、演劇作品に登場します。
世界最古の長編小説『源氏物語』をはじめ、多くの絵巻物や屏風絵にも藤は描かれてきました。
江戸時代、1826年に誕生した歌舞伎舞踊の傑作『藤娘』は、今なお愛され続ける演目です。舞台一面に垂れ下がる鮮やかな藤の花棚の下、藤の枝を手にした踊り手が、恋心を抱く少女の心情を艶やかに舞います。そのあまりの美しさは、「藤の精が姿を現した」かのような幻想的な世界観を作り出します。
藤は人間に幸運をもたらし、鬼に災いをもたらすと言われています。例えば、九州・国東の鬼は、体に藤のつるが巻き付いた姿で描かれることが一般的です。このつるが鬼の力を弱めると信じられているからです。
最近では、大人気アニメシリーズ『鬼滅の刃』で、吸血鬼に対するニンニクのように、鬼を退けるものとして藤の花が登場しています。
藤が見られる場所:
藤の花は素晴らしい光景を作り出し、大きな木の多くは数百年、あるいは千年以上の歴史があります。
おすすめのスポットをいくつかご紹介します:
- 亀戸天神社(東京)
- 河内藤園(福岡)
- あしかがフラワーパーク(栃木)
そのほかのおすすめスポットと見頃の時期は以下の記事でご紹介しています。