今月8月、東京のアートカレンダーは美術館やギャラリーで開催される見逃せない注目の展覧会で締めくくられます。ワタリウム美術館で展示されるナムジュン・パイクの初期の実験的なビデオ作品や、SCAI THE BATHHOUSEで堪能する李禹煥(リ・ウファン)の石と鉄による静謐な彫刻は、絶対に外せません。また今月のハイライトとして、東京タワーからもほど近いTake Ninagawaで開催されるマン・レイのレイヨグラフや油彩画、彫刻の展示も必見です。

今回は、この8月に東京で訪れるべきおすすめのアート展7選をご紹介します。

tokyo art exhibitions august 2026 man ray take ninagawa

マン・レイ『ジャイアント・チェス・セット』(1961年) 展示風景(1961年頃) Photo by Jacqueline Hyde

Take Ninagawa:マン・レイ展

ダダやシュルレアリスムの写真における先駆者として世界的に知られるマン・レイの創造の世界は、暗室の枠を遥かに超えて、彫刻、絵画、そしてオブジェへと広がっていました。Take Ninagawaで開催される個展では、作家が生涯を通じて深く魅了され続けた主題「チェス」に光を当て、多角的なプラクティスを紐解きます。メトロポリタン美術館での2025〜2026年の回顧展をはじめとする近年の世界的な再評価の波を受け、本展ではチェスが単なるテーマにとどまらず、論理、戦略、偶然性、そして欲望が交錯する動的な構造として、彼の芸術にいかに機能したかを探ります。

会場には、レイヨグラフ、油彩画、彫刻が幅広く集結し、貴重なインタラクティブ作品が空間を彩ります。注目は、マン・レイ自身もプレイした 記念碑的な彫刻作品『ジャイアント・チェス・セット』(1961年)や、通常のチェス盤上に木製の駒をダイナミックにスケールアップさせた『パーマネント・アトラクション』(1948/71年)です。作品群を通じて、作品制作をまさに一手一手の「指し手」や「揺さぶり」に満ちた壮大なゲームのように捉えた伝説的芸術家の思考に触れることができます。

会場:Take Ninagawa (地図) 
会期:8月1日〜10月3日(日月祝休廊/夏季休業:8月9日〜17日)
観覧料:無料

没後20年 ナムジュン・パイク じゅげむ展

スマートフォンやAI、カラーテレビすら一般的ではなかった時代に、韓国出身の芸術家ナムジュン・パイク(1932–2006)は、すでにモニターやカメラ、電子信号を用いて「芸術とは何か」を問い直していました。メディア・アートの先駆者である彼の没後20年を記念し、ワタリウム美術館にてその偉大なレガシーを振り返る展覧会が開催されます。パイクはテクノロジーを単なる便利な道具としてではなく、人間の本性や哲学と共生し得る存在として捉えていました。その先見の明は、現代においてかつてないほどの鋭さを増して響いてきます。

本展では、初期のビデオ実験作『手と顔』(1961年)から大規模なマルチメディア・インスタレーションまで、彼のキャリアを網羅する象徴的な作品が一堂に会します。注目作品には『TV Egg』(1982年)、柔らかな光を放つ『ニュー・キャンドル』(1993年)、そして72台のモニターとネオン管で構成された野心作『時は三角形』(1993年)などが並びます。さらに、23台のモニターと観葉植物が共存する『ケージの森/森の啓示』(1993年)は、デジタル世界と自然界との均衡を試み続けた彼のライフワークを凝縮した素晴らしい見どころとなっています。

会場:ワタリウム美術館 (地図)
会期:7月19日〜11月23日(休館日:月曜日 ※7月20日、9月21日、10月12日、11月23日は開館)
観覧料:1,500円

lee ufan tokyo

李禹煥《無題》(1979年) Photo by Nobutada Omote

李禹煥:Work on Paper / Sculpture

1936年に韓国で生まれ、日本とフランスを拠点に活動する李禹煥は、現代アジアン・アートにおいて絶大な影響力を誇る巨匠です。彼は、石、木、鉄板などの素材を過度な加工なしにそのまま提示する1960年代後半の東京の芸術運動「もの派」を理論と実践の両面で牽引しました。SCAI THE BATHHOUSEでは、ヴェネツィア、ニューヨーク、アヴィニョンでの国際的な展覧会に呼応する形で、都内では4年ぶりとなる彼の個展が開催されます。

1970年代から近年までのドローイングと彫刻を集めた本展は、紙作品および立体作品を通じた、彼の静かで思索的なアプローチへの明確な入り口となります。1970年代末から1980年代の木炭や水彩による紙作品をはじめ、自然の川石と工業的な鉄板を配置した代表的な『関係項』彫刻シリーズなどが展示されます。初期の線描に見られる力強い筆致から、紙の大半を余白として残したミニマルな構図まで、李が追求するかすかな物理的相互作用や「ものともの」「ものと人」の出会いの空間を体験できます。

会場:SCAI THE BATHHOUSE (地図) 
会期:8月4日〜10月10日(日月祝休廊/夏季休業:8月8日〜17日) 
観覧料:無料

anna gaskell tokyo art exhibitions august

アナ・ガスケル「She is Making A Spectacle Out Of Herself」展示風景(2026年) Photo by Ken Kato

アナ・ガスケル She is Making A Spectacle Out Of Herself

都内屈指のトップギャラリーが集結する六本木への移転オープンを記念し、HAGIWARA PROJECTSはアメリカ人アーティスト、アナ・ガスケルの個展を開催します。ガスケルは当初、童話のような不穏でシネマティックな構図で少女たちを演出した写真作品で評価を確立し、女性のアイデンティティ、社会的プレッシャー、内面の葛藤といったテーマを一貫して追求してきました。

本展では、彼女特有のミステリアスでドラマチックな空気を孕んだ油彩画の新作シリーズが初公開されます。力強い輪郭線と深みのあるダークな色彩で描かれた絵画は、夢とうつつの狭間のような不気味なシーンの中の女性や少女たちをとらえています。「smug(うぬぼれ)」と書かれたサッシュを身につけた女性や、階段で不安げに女性と対峙する少女など、作品は伴侶関係や社会的期待、女性同士の連帯といったテーマを呼び覚まし、観る者の想像力を大いに刺激します。

会場:HAGIWARA PROJECTS (地図) 
会期:7月11日〜8月29日(日月祝休廊) 
観覧料:無料

TOPコレクション 明日の食卓

「食べる」という行為は生きる営みと分かち難く結びついており、個人の記憶や社会的な繋がりを鮮明にあぶり出すレンズの役割を果たします。東京都写真美術館は、定評のある「TOPコレクション」シリーズの最新展「明日の食卓」にて、この深遠な関係性を探ります。3万9,000点を超える膨大な収蔵品の中から、現代アーティスト14名(組)の作品を厳選し、料理、食事、そしてコミュニティという極めて人間的な体験を紐解きます。

4つのセクションで構成された展覧会は、「食」を通して高齢化や孤食の寂しさ、変わりゆく環境など、現代社会のリアルと向き合います。島尾伸三のノスタルジックな『生活』シリーズや、潮田登久子のデジャヴのような『冷蔵庫』などの写真作品に加え、川内倫子の詩的な映像作品『Cui Cui』、折元立身が500人のポルトガルの女性たちと繰り広げた大規模な会食の映像記録など、見応えある作品が揃います。

会場:東京都写真美術館 (地図)
会期:7月2日〜9月21日(休館日:月曜日 ※祝日の場合は開館し、翌平日休館)
観覧料:700円

瀧口修造 書くことと描くこと

20世紀日本の前衛芸術において最高の美術批評家であり詩人であった瀧口修造は、シュルレアリスム宣言の翻訳や同時代アーティストの支援を通じ、長年にわたりアヴァンギャルドの中心に佇んでいました。しかし1960年頃、彼はタイプライターから離れて絵筆を取り、没するまでの晩年を、自身がただ「デッサン」と呼んだ濃密で自省的な造形表現に捧げました。本展はこの魅力的な転換に着目し、「言葉を通じて世界と対峙してきた人間が、なぜ線や水彩、インクによる表現へと向かったのか」という本質的な問いを投げかけます。

本展は、石橋財団が新収蔵した瀧口修造コレクションの初の大規模な一挙公開であり、マルチメディアに及ぶ実験的な作品約80点が並びます。単なるキャリアの変更としてではなく、1920年代初期の詩から晩年の夢幻的なスケッチへと繋がるなだらかな軌跡を辿ります。また、ジョアン・ミロ、マルセル・デュシャン、ポール・クレー、草間彌生といった彼と親交の深かった伝説的アーティストたちの名品もあわせて展示され、彼が世界のアート界といかに深く繋がっていたかを物語ります。

会場:アーティゾン美術館 (地図)
会期:6月23日〜10月4日(休館日:月曜日 ※7月20日、9月21日は開館、7月21日、9月24日は休館)
観覧料:1,200円

tokyo art exhibitions august 2026

風そよぐ情景 ヴィクトリア朝絵画・フランス印象派

19世紀後半、産業革命がヨーロッパ中の都市を変貌させる中、画家たちは移ろいゆく光や気象の移ろい、日々のつつましい営みを捉えようと田園地帯へと目を向けました。閑静な白金台に佇む松岡美術館では、所蔵品の中から30点以上の名品を選りすぐった企画展を開催。ヴィクトリア朝のイギリス絵画とフランス印象派のパイオニアたちを対比させることで、近代化が加速し始めた時代の自然景観と人々の暮らしを爽やかに振り返ります。

イギリス側では、ベンジャミン・ウィリアムズ・リーダーによるのどかで精緻な風景画や、チャールズ・エドワード・ペルジーニによる心温まる人物画が並び、都市の過密化に疲れた19世紀の人々に静かな安らぎをもたらした世界観を提示します。一方フランス側では、印象派誕生の足跡を辿ります。18歳のクロード・モネに屋外写生を勧めたエウジェーヌ・ブーダンをはじめ、若き日のモネによる『サン=タドレスの断崖』(1867年)、風景画の巨匠アルフレッド・シスレー、カミーユ・ピサロやオーギュスト・ルノワールの肖像画などが展示されます。

会場:松岡美術館 (地図)
会期:6月16日〜10月12日(月曜休館)
観覧料:1,400円

この記事は、Eugenie Shinによる英語の原文を翻訳・編集したものです。