銭湯は、日本の日常生活の美しさがぎゅっと凝縮された場所です。単なる入浴施設を超えた「地域コミュニティの拠点」として機能しています。湯船に浸かれば近所の噂話が聞こえてきたり、時には地元の人と自然に言葉を交わしたりすることもあるでしょう。本格的な温泉宿よりもリラックスした雰囲気があり、中には天然温泉を引いている「温泉銭湯」も存在します。
一般家庭にお風呂が普及していなかった時代から、何百年もの間、日本人の生活を支えてきた銭湯。建替によってモダンになる施設も多い中、歴史的な特徴を色濃く残す、東京でお勧めのレトロな銭湯・温泉をご紹介します。

1. 上越泉(中野・高円寺)
素敵な老夫婦が営む上越泉は、高円寺駅から徒歩10分ほどの閑静な住宅街に佇む、知る人ぞ知る隠れ家的な銭湯です。店主が毎日手入れをしている花や緑が、訪れる人を温かく迎えてくれます。
脱衣場には、昔のマッサージ機やパーマ機のような形をしたドライヤーなど、今では珍しくなった時代を感じさせる品々が並んでいます。昭和の雰囲気が漂うタイル張りの屋外ミルク風呂のほか、ジェットバスや水風呂も完備。こぢんまりとした施設のため、一人か二人での静かな訪問がお勧めです。

2. 押上温泉 大黒湯(浅草エリア)
このリストの中で最大の規模を誇るのが大黒湯です。露天風呂からそびえ立つ東京スカイツリーを望めることで有名ですが、伝統的な「格天井(ごうてんじょう)」や、銭湯ペンキ絵師・田中みずき氏による巨大な富士山の壁画など、レトロな意匠も随所に見られます。
天然温泉を使用しており、高濃度炭酸泉や2種類のサウナなど設備も充実。深夜まで営業しているため、遅い時間の到着でも安心です。
浴室とサウナは日替わりで男女入れ替え制となっており、事前に公式サイトで確認することをお勧めします。

3. タカラ湯(北千住)
「キング・オブ・縁側」の異名を持つタカラ湯は、1927年築の見事な建築を誇る名門銭湯です。特撮ドラマ『仮面ライダー』のロケ地としても知られていますが、最大の自慢は手入れの行き届いた美しい日本庭園です。
見事な池や緑を眺められる縁側には、男湯の脱衣所またはロビーからアクセスできます。毎週水曜日に男女の浴室が入れ替わるため、女性の方は水曜日に訪れると、この特等席での外気浴を楽しむことができます。

写真:Kim Kahan
4. 帝国湯(日暮里)
1916年築の帝国湯は、東京の「下町」の風情を今に伝える珠玉のスポットです。館内には「錦鯉」のテーマが散りばめられており、タイルの絵画だけでなく、脱衣所の池には本物の魚が泳いでいます。
薪で沸かした柔らかなお湯が自慢で、水風呂とあつ湯があります。2023年に再改装が行われましたが、古き良き雰囲気は大切に守られており、入浴後に植栽を眺めながらくつろげる屋外休憩スペースも魅力です。伝統的な番台スタイルの受付が残っており、一人の番頭さんが見守っています。

5. 藤の湯(用賀)
藤の湯は、伝統的な「入母屋(いりもや)」造りの立派な屋根が郷愁を誘う銭湯です。道路から少し奥まった場所にあるその全貌は、都会の隙間に隠された聖域のよう。
館内は木材がふんだんに使われ、フクロウのモチーフがいたるところに飾られています。特筆すべきは、銭湯では珍しい本格的な「檜風呂」です。その上には東屋(あずまや)が組まれており、まるで神社の中でお湯に浸かっているような、神聖で贅沢な気分を味わえます。

写真:Kim Kahan
6. 豊川浴泉(文京区)
どこかサーカスを思わせるような色彩豊かな内装が特徴の豊川浴泉は、スタッフの温かなおもてなしが魅力のアットホームな銭湯です。3代目の岡嶋幸夫さんは毎日お香を焚いて穏やかな空間を演出しており、店名の刺繍が入った伝統的な法被を着たスタッフが迎えてくれます。
日替わりの薬湯はジャスミンやラベンダーなど香りが良く、心身ともにリラックスできます。地元の人々の笑い声や会話が絶えないこの場所は、まさに地域コミュニティの象徴。現代の東京に残る「心のふるさと」のような場所です。